
「妻の突然の失踪。残された一通のメール。
「この先の人生の中で、1度だけわがままを言わせてください。2カ月だけ自由にしてください。
必ず戻ってきますから。探さないでください。本当にごめんなさい」。
恥を忍んで交流のある人たちに事情を知らないか聞いて回る。
1週間が過ぎたころ、妻と仲の良かった同級生の母親から一本の電話が。
それは、行事打ち上げのお酒の席で、妻が耳打ちしてくれたという内容だった…。
その内容は、「恋するっていいよね」という一言。
深くは語ってくれなかったが、その友人は女の勘で、妻には好きな人ができたと感じたという。
電話を受けた夫は、妻に好きな人ができたなど到底信じられない。
だが、私たち探偵には容易に想定することができた。
数多い経験の中で、このようなケースにはかなりの確率で男の影があると知っているからだ。
しかし、相談は混迷を極めた。
それは、夫が妻を信じたい、2カ月待ちたい、男じゃなくて、一人になりたいだけとかたくなに言い張ったからだ。
結果として、両家の両親はそれを許さなかった。
どこにいるのか。男と一緒なのか。真実をつかむことが先決と、調査することを決めた。
搜索開始から2週間、妻のアパートを発見。
それは自宅から10mも離れていない、小さな町工場と畑や荒地に囲まれている2階建てのアパートだった。
午後5時30分を過ぎた時、一台の古ぼけた車が駐車場へ。
ほどなく男が降りてきた。
作業服に身を包んだ体格のい職人風の、30代半ばとおぼしき男だ。
異様に目つきが悪く、車を降りてもあたりを脾睨 (へいげい)するように見渡している。
警戒をしているのだろう。
とその瞬間、妻がドアを開け満面の笑みで男に手を振る姿を目にした。
翌日これら一連の映像を家族に報告。
夫と両家の父親は、この現実をまるで受け入れることができない。
それとは反対に、母親たちは女性故の気丈さなのか「乗り込みたい。連れて帰る」と現実から目をそらすことなく言い放ち、
ボディーガードとして同行してほしいという。
Xデーを決め、万が一に備え警備業として警察署に計画を報告しておく。
男が帰宅する午後5時半、妻がドアを開けると同時に妻を連れだした。
突然の出来事に男はほうぜん自失、妻は母親に叱責(しっせき)され、頬をたたかれ地べたに座り込みうつむいたまま。
男も事情を察してか、部屋に上がり妻の荷物を運び出したいと同意を求めると素直に応じた。
そして、泣きじゃくる妻を護送用のワゴン車の後部座席に押し込んで、この場を後にした。
その後どうなったかは、ここで語ることはできない。
それほどむごい顛末(てんまつ) を迎えたからだ・・・。
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