「息子が5歳の時、女をつくって家を出た夫。
昼間は医療 機関の団体職員として、夜はパチンコ店の清掃をしながら子どもを育て上げ、
息子は有名私立大学を卒業し金融機関に就職した。

しかし、嫁との軋 (あつれき)から、息子夫婦は5年間帰省もしない。
老後は息子に頼らず一人で生き抜くと利殖を考えていた矢先、 その営業マンの優しさに結局、退職金の2千万円を預けた。
警察や弁護士などに相談しても詐欺としての立件は難しいと言われ、揚げ句の果てにもうけ話に乗ったあなたも悪いと言われた・・・」

途方に暮れた。
私の何が悪いのか。
誰一人として味方になどなってくれない。
見え透いた同情だけ。

疎遠になっている息子に話せるわけがない。
GKは、以前放映されていたテレビ朝日の「あなたに逢いたい」でレギュラーを務めていた。

人探しは誰にも負けないという自負がある。
しかし、その営業マンの手がかりは名刺だけ。
見つからなかった場合のリスクも十分説明したが、やってほしいと着手金も持参してきた。

依頼人の並々ならぬ覚悟を感じた。
GK探偵グループの総力を挙げた捜索が始まった。

そこで着目したのが、その名前だ。
苗字はありきたりだが、名前は変わっている。

こういう投資詐欺の場合、名前だけは正直に名刺に織り込むケースが多い。
それは、免許証の提示などを求められる場合も多いからだ。
その名前だけをたよりにあらゆる手段を駆使して捜索した。

それから2カ月後、ようやく同姓同名の男の足取りをつかむことができた。

埼玉県の分譲マンションにいることが判明した。
3日間かけてようやくその営業マンの姿をとらえることができた。

その男の容姿は依頼人の記憶にある男の特徴と一致、後日依頼人に映像を見てもらう。
「この男です」と3度も口にした。
探偵冥利(みょうり)に尽きるのもつかの間、当初、依頼人は話に出向きたいから警護(ボディガート) として
同行してほしいとの要望だった。

その話を進めようしたとき、「これでやっと気持ちが落ち着きました。許せない気持ちは払拭(ふっしょく)
できませんが、誰にも相手にしてもらえなかった私の話を聞いてくれて、真剣に取り組んでもらえました。
私の怒りや思いを受け止めてくれたことが何よりもうれしいのです。
幸い体も丈夫なので、 働き口を見つけます…」と事務所を後にした。

私たちにかけられる言葉は見つからなかった。
きっと、その営業マンの姿と、同年代の息子の姿とが重なり合ってしまったのかもしれない。
優しさに飢えていたのかもしれない。
私たちはそう思いをはせることしかできなかった。

※本文は依頼人の了承を得てプライバシーに配慮しています。

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