知人の警察関係者から紹介されたとGKを訪れた60代の夫婦。
その柔和な顔つきと身に備わった品格は、相談事があるとは感じさせない。
しかし、夫は瞠目(どうもく)し、妻はうつむいたまま。
じっと言葉を投げかけてくれるのを待つ。
そして、意を決したように夫が口を開いてくれた。
依頼内容は、嫁いだ娘の居場所と同棲(どうせい)しているであろう男の素性を洗ってほしいというものだった。
娘は35歳。
楽器メーカーに所属してピアノの教師をしている。
25歳の時に、高校時代から交際していた彼の大学院修了と就職を機に結婚し、今年小学生になった女の子がいる。
娘は反抗期もなく、両親が手をあげたことなど一度もない。
近所では誰もが品行方正、才色兼備の娘だと口をそろえた。
嫁ぎ先は、その地域を代表するような旧家であり、代々、政治・行政と深く関わってきた家柄だった。
また依頼人の家も、県内でも歴史のある企業の創業家であり、誰もがうらやむような婚姻だった。
舅(しゅうと)、姑(しゅうとめ)とも旧家にありがちな傲慢 (ごうまん)さはとは無縁な心温かな家であり、
娘の夫は製薬会社の研究者として真面目で、怒るということとは無縁な優しい夫だった。
それなのに娘は家を出た。
「不満はありません。ただ、私の人生このままでいいのか、物足りなさを感じています。
捜さないでください」と夫に宛て一通のメールを残して。
あんなにも愛する子を残してまで家出に駆り立てたものは何だったのか?
現実を受け入れられない。
ただ、両家ともことのほかスキャンダルを恐れていたし、すぐに帰ってくるからそっとしておこうと 1カ月が過ぎた。
そして、夫宛てに届いた一通のメール。
それは離婚してほしいというもの。
驚愕 (きょうがく) したのはそれだけではない。
こともあろうに、好きな男性ができたとも書かれていた。
もはや世間体を考えていては、ただ事態が悪化するのは明らかである。
夫婦は、娘の勤め先に行った。
既に2ヵ月前に辞めていた。
愕然(がくぜん)とする夫婦に、言いにくいことなのですがと、同僚がそのきっかけを話してくれた。
「同僚数人で出 会い系サイトをしていて、私たちは遊び半分でしたが、娘さんだけは、
忠告を無視して 一人だけはまってしまいました。
そこで知り合った男性だと思います。私も一度、男性と会う時に同席したことがあります」。
夫婦にとっては何のことだか分からない。
しかし、数日前にテレビで見た「妻が出会い系サイトにはまり、突然家出をしてしまう事態が急増しいる・・・」
ということを思い出した…。
搜索開始。
手がかりは少ない。同僚の協力を得ながら娘の足跡を追う。すると…。
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