半年が過ぎたが、一度も連絡がない。夫は、ようやく、この現実を受け入れ、妻の所在を割り出すこととした。

 

捜索開始から2週間、妻のアパートを発見。それは、群馬県境の木造2階建ての今にも朽ち果てそうな古ぼけたアパート。耕作されていない畑や雑木林に囲まれ、様子をうかがうことができない場所だった。妻は、そこから車で15分ほどの工場で働いていた。

 

探偵は、草むらに身を隠し、様子をうかがう。ほどなく、何台かの車が来た。中東アラブ系の男性が3人、4人と部屋のいくつか分散して入る。妻以外の居住者はすべて外国人の男だけだった。そのうちの1人が2階へ駆け上がり妻の部屋をノックした。
妻がドアを開けた。
電灯が消えても男は妻の部屋を出ることはなかった。翌朝6時から再び張り込む。

 

6時半になろうとした矢先、男だけが部屋から出て、1階の部屋へと入った。そして7時半、作業着に身を包んだ 妻が出てきた。平日は、すべてこのパターンだった。夫に報告。感情をあらわにすることはなかったが、「連れ戻したい」とつぶやいた。目が濡れていた。不審かつ得体の知れない外国人だけが(たむろ)するアパートであり、危険も予知しなくてはならない。万が一に備え、警備業として所轄の警察署に計画を報告しておく。

 

夫には防刃ベスト(刃物を通さない)を着せて、早朝の6時半、男がドアを開ける瞬間に踏み込んだ。

 

「Don’t move stay here(そこを動くな!)」男を部屋に押戻し座らせる。妻は呆然自失(ぼうぜんじしつ)としたままベッドの中にいる。妻は夫に任せて、妻のものと思われる荷物を運び出す。男の仲間が騒ぎを起こさないうちに事を運ぶ必要がある。片言の英語で男を追及していく男は24歳、妻のことは29歳独身と聞いていたという。

 

男に、家族で微笑ましく写っている写真を見せる。信じられないと頭をかかえた。泣きじゃくる妻を護送用のワゴン車の後部座席に押し込んで、この場を後にした。それから3日後、また妻がいなくなった。現在は、正式に離婚して別々の道を歩んでいる。

 

「手遅れにならないうちに、勇気を持って現実を直視すること。」これが大切なのです。

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