「弁護士さんの紹介で」と20歳代の女性。3歳の男の子を連れている。相談内容は弁護士から、理不尽で辛い目にあったと聞いていた。夫は、国立大学を卒業して有名企業に就職し、研究者として将来を嘱望されている人物。実家は都内にあり、父親も一流企業の重役を務めた経験のある地元でも名家。一方で女性は、4歳の時に両親が離婚、それから母子家庭で育った。公営住宅に暮らし、経済的な理由もあり高校を中退。歳は夫より一回り下だ。
出会いは5年前。深夜のレストランでバイトを掛け持ちしていた女性に、夫たちのグループの一人が声をかけたのが始まり。夫には結婚を誓い合った相手がいたが、それを承知の上で交際が続いた。1年後、妊娠した。当時女性は22歳。夫には相手もいたし、重荷になるつもりはなく、これを機に中絶し交際をやめようと思っていた。しかし夫からは、結婚を誓った相手とは別れる、結婚してほしい、子どもを産んでくれと懇願される日々。夫の両親は、この事実を知って激怒し、何度も足を運び子どもを堕ろすように説得したが、これまで見たこともない息子の激高にさじを投げた。親子の縁も切ると…。しかし、出産し初孫の顔を見せると態度も軟化、孫をいい環境で生活させたいと、一軒家を購入してくれた。
ところが、平穏無事な生活は続かなかった。妻が子どもの育児にかかりきりになると、夫は今まで見たことが無いような幼児性と暴力性が露呈して、中卒とののしり、箸を投げつけ食卓も壊すという行為にエスカレート。妻は、育った環境にいいようもない劣等感があり返す言葉も見つからないまま、隙を見て子どもを抱えて母親のもとに避難した。すると、酒に酔った夫が夜中に玄関を叩く。警察沙汰にもなったが、夫の両親の仲裁もあり、一旦は平静さを取り戻した。それからは、夫の顔色を伺う生活が始まる。まるでジキルとハイドのような夫。優しさと凶暴さが繰り返し顔を出す。そのうち、土曜日になると家で仕事をするから実家に帰れという夫の言葉に従い、週末は子どもを連れて実家に戻る生活が始まった。
ある週末の夜、子どもの忘れ物を取りに帰り自宅に入ろうとした時、夫とそれ以外の人の気配を感じた。それも女性のような気配。玄関を開ける勇気など毛頭ない。釈然としないまま、実家に戻った。すると母親は我慢にも限界があると、堰をきったように泣きだした。母子家庭で辛い思いをさせてごめんなさいと。初めて見る母の姿だった。今まで強く毅然とした母しか見てこなかった。そして、母は、妻になけなしの現金を差し出した。弁護士に相談して、徹底的に闘いなさい、これ以上娘が侮辱されるのは許さないと…。
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