「息子は元気だろうか?」と、60代後半の老夫婦。息子とはここ10年間会っていない。高校卒業と同時に上京し就職したが、5年ほど前に退職してしまい、どこで何をしているのか分からない。
 「元気ならばそれでいい。せめて今現在の姿(写真)と、どんな仕事についているのかだけでも知りたい」という。会いたくは? との問いかけに、固く口を閉ざしたまま。でも、会いたいことは明らかであった。母親だけは目が潤んでいた。
 調査開始後3週間で息子の住所(関西のとある都市)と勤務先が判明。働く様子などを映像に収め、息子の帰宅を待つこととした。3日間ドア越しに粘り、ようやく対面したが、父親を毛嫌いしていた。むしろ憎んでいた。親の写真を持参したが、見ようとしない。そのうち重い口を開いたところによると、父親の酒乱による母親への暴力が原因だった…。

 その後もなんとか再会できないかと努力したが、結局はかなうことはなかった。映像を見せたときの依頼人の笑みと涙は、「探偵として生きる私たち」にとって勇気と誇りを与えてくれた。

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