6月上旬、ある会社の取締役と社外取締役、経理課長という3人が相談に。その会社は創業40年社員90人の食品加工会社。創業者である先代の社長が昨年の春に70歳で急死して、専務取締役だった息子が2代目社長に就任した。先代の社長は苦労人で、仕事に厳しくワンマンだったが、信賞必罰、公平な人事、人を見抜く目を持っていた人で、うるさい社長と言われながらも社員には愛されていた。業績も右肩上がりで、社員・家族の福利厚生にも力を入れており、その死は社員たちに深い悲しみをもたらした。

 相談の内容は、2代目社長についてだった。先代社長がいるときには、地味で目立つこともなく社長に意見するようなことは一度もなかった。社長に就任して半年が経過する頃に、変化が起きた。先代の社長は、贅沢(ぜいたく)品・物欲というものに無頓着で、通勤も大衆車、いつも作業着で社長室よりも工場にいるほうが長かったような人だった。しかし、2代目社長は、高級スーツや時計などの服飾品を身に着け、高級外車まで購入。工場に顔を出すこともなくなり、交際費名目の飲食店の領収書も激増した。厳しかった先代社長が亡くなり「たがが外れた」ようになったと。このような状況の中でも、先代の意思を受け継いでいる古参の役員や社員たちの奮起で業績は落ちることもなかった。

 しかし、ここ半年見過ごすことのできない事態が起きていると相談者3人は顔を曇らせた。それは、人事にも口を出すようになってきたことだ。仕事よりも社長にこびへつらう人間たちを管理職に登用すると言い出したり、意見を言うものを平気で降格させるような横暴経営が始まった。それだけではない。ある連休中に女性社員と2人で高速道路のパーキングにいる所を、他の社員に目撃された。その女性社員は離婚歴がある入社15年の経理課の社員。夜のバイトもしているのではと噂が絶えない女性社員だが、最近仕事も横柄さが目に付くようになり、急な休みが著しく増えてきた。さらに、同じ課の先輩女性社員に仕事のことで叱責(しっせき)されたときパワハラと騒いだ。その1カ月後、社長の一方的な命令で先輩社員を工場勤務に追いやり、結局退職させてしまった。

 つまり、妻子のいる社長がその女性と不倫関係にあり、言いなりになって会社を蝕んでいるという危惧だ。このままでは、会社はダメになる。株式は創業家の家族で70%を保有しているので、役員人事も社長の言いなりになりかねない。ここは30%の株式を保有する先代社長の妻に味方になってもらうしかない。それが会社の未来のため。社長と女性社員の調査が始まった…。

後半に続く

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