9月某日、突然の訪問者。60代の品格を備えた夫婦。内容は息子の嫁のこと。息子と嫁はともに33歳、4年前に結婚して2歳になる娘がいる。昨年まではアパートで暮らしていたが、自宅敷地に息子家族のための家を新築してあげて、今年越してきた。両親にとっては、一人息子で一人の孫。特に、孫と一緒に過ごす時間が何物にも代えがたい幸せを感受できる時間。嫁は出産に伴い看護師の仕事から離れていたが、仕事に復帰したいと4月からクリニックに勤めだした。孫と過ごせる時間が増えることから賛成し、嫁の通動のために新車も与えた。息子は都内にある大手飲料メーカーの本社に新幹線通勤をしている。一流私立大学を卒業して第一希望の会社に就職。泊りの出張も多いが、両親がいるからと、ますます仕事に傾注していった。月に2回は家族全員で外食したり、時には嫁の両親や妹夫婦も呼び会食をするなど、この上ない幸せを感じていたのだけれど…、と言葉に詰まった。そして、このアスポ「探偵シリーズ」の愛読者で、まさか自分たちが当事者として相談にくるとは…、対岸の火事としか思ってなかったと。

 ことの発端は、勤めだして2ヵ月が過ぎたころ、平日の午後のクリニック休診の日も、仕事だと言って帰りが遅くなり、徐々に深夜帰宅も増えた。息子夫婦に干渉するのは良くないと、黙って見過ごしていたが、本来休みであるはずの平日の午後、嫁は仕事だと言ってたが、買い物ついでにそのクリニックに行ってみると嫁の車はなかった。一抹の不安が生じて、息子にそれとなく進言したものの、反対に干渉しすぎと怒られる始末。また、嫁が孫を預ける時に、これまでとは違い、自分たちと視線を合わさないような変化に、その不安は大きく膨らんでいったという。調査をして、何も出てこなければ安心するからと、嫁の素行調査をすることに。

 嫁のクリニックが休みの平日の午後、昼から張り込む。12時30分を少し回った時、嫁が出てきて車に乗り込んだ。向かった先はイタリアンレストラン。そこで、同僚と思しき女性とランチ。2時間後、店を出て同僚と別れてショッピングモールへ。その後2時間ほど店内を物色して、車に戻った。しきりにスマホを気にしている。もしかしたら…と思いきや、次に向かった先は、脱毛専門のエステサロンだった。その後スーパーに立ち寄り帰宅。後日報告。父親は安堵の表情を浮かべたものの、母親はまだ不安が隠せない様子。1回の調査だけではわからないと、あと3回、調査をすることになった。この母親の決断が、驚愕(きょうがく)の真実を暴くことになろうとは、この時点では知る由もなかった。

後半に続く

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