3月某日、懇意にしている弁護士と共に事務所を訪ねて来た70歳の夫。その内容は妻の浮気疑惑。昨年2月に籍を入れたばかりの、48歳の妻のことだった。

二人が知り合ったのは8年前。夫が当時経営していた会社に保険外交員として出入りするようになったのが縁。夫は30代の時に離婚をして母親と2人暮らしで子供はいない。その母は4年前に他界し独り身になった。それから、2人の関係が急接近したのだという。当時妻も高校生の娘を抱えてシングルマザーとして公営住宅に暮らしていた。妻は独り身になった夫のために、かいがいしく炊事洗濯など身の回りの世話をしてくれるようになった。夫も孤独の身となり、寂零(せきりょう)感しかない生活に光が差し込んだような気持ちになり、妻の娘が高校を卒業し上京したことを機に籍を入れた。保険外交の仕事もやめて、2カ月程は平穏無事な生活を送っていたという。

しかし、次第に炊事洗濯もおろそかになり、実家へ泊る、友達と食事してくると頻繁に外出するようになった。時たま外泊もするように。夫は諍(いさか)いすることを我慢していたが、妻が夜出かけていた日、体調が悪くなりやむを得ず妻の携帯へ電話しても一向につながらなかった。その日の帰宅も深夜であり、電話を入れたのが癇(かん)に障ったらしく、夫の体調を気遣うこともなく悪態をついた。友人の「お前の財産狙いなんじゃ…」との言葉が脳裏によみがえったという。夫は籍を入れる前から、車の買い換えや上京費用など多額の費用を融通してきた。夫のあきらめなのか・表情のわびしさが印象的だった。

調査開始。妻の尾行3日目、11時に家を出た妻はショッピングモールに車を乗り入れるが、入り口近くではなく建物の裏手側に止める。降車もしない。買い物目的では無い事が一目瞭然。すると10分後、高級セダンが隣へ。初老の男性が降車して妻の助手席に乗り込み、そこから10分ほどのラブホテルへ入った。探偵たちは目を見張った。その男性はあきらかに夫よりも年上で、70代後半に見える。さらに、妻の車のナンバーとそのセダンのナンバーが同じだったことだ。2時間後ラブホテルを出て待ち合わせ場所へ戻り別れた。男性を追う。男性は車で20分ほどの2階建ての会社に入った。

後日の素性調査で、この男性はこの会社の代表取締役であり、妻と娘夫婦、孫と暮らしていることが判明した。夫に現状を報告し調査を継続。すると10日に1度の割合で、同じ男性と待ち合わせ場所や時間、ホテル等を同じパターンで、不貞を重ねている事実に行き着いた。夫は独り身の寂しさに負けた自分をひたすら後悔していた。

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