【近年、妻の浮気の相談に来る夫の数が増えている。一昔前は、浮気というと夫と相場が決まっていた・・・」
70歳の夫が相談に来た。
背を丸めた小さな体に気の弱そうな顔つきから、聞き取れないほどの声で口を開く。
妻は65歳、ホテル客室の清掃のバイトをしている。

一方夫は、名のある会社を定年まで勤め上げた技術者で、退職後は体調を崩し家にいる。
妻の浮気の疑惑は、妻の友人からの告発だった。
妻と仲たがいしたのがきっかけだった。

「〇〇工業という会社を営んでいる、65歳の男と浮気している。
男の妻は5年前に亡くなっている」というもの。

夫には、まるで晴天の霹靂(へきれき)。
確かにここ数年、夫婦仲はよくない。特に夫が定年退職をしているからというもの、
どんよりした空気が蔓延(まんえん)してきた。
妻は食事は用意するものの、一緒の食卓では食べない。
二人で出かけるようなこともない。
当然のごとく、夫婦仲が悪い家には、子供たち夫婦、孫も寄り付こうとしない。

夫は、告発を受けてから眠れない日々が続く。気の強い妻には真偽を確かめる術もない。
まさかこの年になってこんな思いをしようとは。
眼鏡がみるみるうちに曇っていく。

その不安は次第に、妻の勤務先や、男の家の近くを徘徊(はいかい)するようになっていった。
そして、夫が目にした男は体も大きく、こわもてで一見堅気には見えない。
自分と正反対の風貌に、悔しさとコンプレックスが襲いかかる。

病的なほど毎日徘徊してしまう。
しかし、その行動をあざ笑うかのごとく、徘徊しているところを撮影され、慌てて逃げ帰ってくる始末。
ばかにされている。

今更妻を愛しているというものではない。
ただ、70歳でも、最低限の男の矜持(きょうじ)は持っていることをわからせたい。

調査開始。
妻と男の両方を張り込む。

二人は、同時刻に家を出た。
妻の向かった先は、郊外のショッピングモール。
しかし男は、反対の方向へ車を走らせる。環状線を時速40キロで遅走したり、わき道に逸れたと思うと、車を停車させる。
そしてUターン。これは明らかに、警戒している者の行動だ。夫が何度も備考に失敗したことが要因だろう。

難しい尾行になる。
しかし夫の矜持を守るため、失敗は許されない・・・。

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