県北から両親とともに連れ立って来た学生のような若い妻。
その胸の中には、心地よく瞼 (まぶた)を閉じている 生後半年ほどの天使がいる。
若い割には、意思の強そうな目と凛(りん)とした姿が印象的だ。両親にも悲壮感は無い。
妻は、大学時代友人と連れ立った祭りで、現在の夫に声をかけられた。教員を目指していたが、この夫との出会いで予想しえなかった人生になってしまった。
まじめだったがゆえに、表面では悪そうな男を嫌悪しているふりをしていたが、不良っぽい男性にあこがれを抱き続けていたという。
夫は高校中退後土建関係の仕事をしていた。見た目は怖く悪そうなのに、ときおり見せる子供のような笑顔とのギャップ、いい人を演じない反社会的な振る舞いにあこがれ、それを男らしさと混同した。
次第に学校もおざなりになり、交際からわずか半年で妊娠。両親の衝撃は計り知れなく、優等生だった娘の転落に身をかきむしるほどの葛藤(かっとう)が続いた。しかし、孫になる赤子を堕胎することは、信仰している宗教上絶対に許されることではなかった。
両親は現実を受け止めた。妻は大学をやめ、夫となった男と暮らし始めた。お産までは割と平穏な生活が続いたが、出産してからというもの、子供の夜泣きがうるさいと怒鳴り散らした挙句、物にあたり、飲んで帰る日が頻繁になっていった。
妻は両親には心配かけまいと耐えたが、ある日、車の中で見つけたシュシュ(女性の髪を束ねるもの)に、女性の存在を確信した。
相談した両親は驚かなかった。むしろ「離婚してやり直してほしい、プロに頼んできっちりとけじめをつけなさい」と背中を押された。
妻は、夫のいない間に実家に戻ったが、1週間たっても連絡はなく、実家に来てくれることもなかった。
妻は自分の浅はかさに悔いた。しかし、両親という何よりの味方を得て、調査することを決意した。
夫の給料日に調査開始。夫の勤務する会社へ内偵をかけ、現場の場所を突き止める。
バックホーを操作する夫の姿と、隣接する空き地にある夫の車を確認。調査チームの血がたぎる。依頼人に泣き寝入りはさせない。
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