「息子の様子が知りたい」という60歳の母。息子の顔は十年来見ていない。息子は高卒と同時に上京し就職。5年前、親族の不幸を知らせようと職場に連絡したが、既に退職していた。なぜ、このようになったかについて、口は重い。ただ、「どこで何をしているのか? 結婚はしたのせめて現在の姿(写真)が見たい」。会いたくは? との問いにも、硬く口を閉ざしたまま。
 調査開始15日目。息子は東京郊外のパチンコ店に勤務、独身寮に住んでいた。退社し駅に向かう途中で声をかけた。宇都宮から来たことを伝えただけで、「話なんかねえよ」と取り付く島もない。4日同じことを繰り返し、ようやく話ができた。依頼人の現在の写真を見せても、何の感激もない。息子は「5歳の時、父の暴力に耐えかねて自分を置いて出て行った。1年後迎えに来たが、置き去りにした時の恨みは消えない」と言う。
 やりきれない気持ちのまま東京を後にした。その後も、何とか修復できないかと努力したが、まだその願いはかなわない。

 息子の写真を手にした時の母の涙と笑みは、生涯忘れることはない。

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