「依頼人を救え!」(幻冬舎 新書: 丸山祐介著・GK探偵 事務所監修)を読んで来たという、
県北に住む30代後半の夫。

自分の両親のみならず、妻の両親も連れ立ってきた。
その外見と話しぶりから実直さが伝わってくる。
ただ、口下手なのか、ことの顛末(てんまつ)については付き添ってきた妻の母が口を開いた。

「娘(妻)が突然家を出た」と、前置きもなく突然切り出してきた。
夫と妻は高校時代からの交際を経て結婚した。
現在は中学生の息子と小学生の娘2人の子どもがいる。

夫の両親は食堂を営んでおり、妻が学生時代にアルバイトをしたのをきっかけに交際が始まった。
夫よりも、その両親が、妻の気持ちの良さとその働きぶりに心底ほれ込み交際させたのが真相だと話す。
両家の間柄も食堂を開店させた当時から親交があり、 身内全員の祝福を受けた結婚だった。

嫁と舅(しゅうと)、姑 (しゅうとめ)の仲もすこぶる良く、特に嫁と姑は親子以上の間柄と近所でも評判だった。
そして、3年前からは、店をすべて譲った。
実直な夫と明るく笑顔の絶えない妻の接客で、通いつめる客は多い。

昼間は会社員を中心とした常連客で満席となり、夜は家族連れでにぎわう。
妻は決して美人とは言えないが、初対面でも相手に胸襟を開かせるような、明るさとフレンドリーな
気質を持ち合わせていた。
そんな時、妻から夫に宛てに一通のメール。 突然の失踪に身内はがくぜんとした。

メールには、「この先の人生の中で、1度だけわがままを言わせてください。2カ月だけ自由にしてください。
必ず戻ってきますから。探さないでください。本当にごめんなさい」と書かれていた。

まさに青天のへきれき。
翌日、警察に「行方不明者届出」も出した。

成人者の自発的な家出は、事件性もなく捜索はされない。
そのことは分かっていた。
でも、何かしないわけにはいかなかった、と話す母親の目は濡れていた。

それからというもの、恥を忍んで、妻と交友があった関係者に片っ端から事情を知らないか聞いて回る日々が続いた。
瞬く間にこのことが学校のみならず、常連客にまで知れわたった。

うわさ話に尾ひれがつき、次第に子どもたちが学校に行きたくないと言い始めた。
配慮が足りなかったかもしれない。しかし、店を休み、連絡がとれなくなればいずれにしても
妻の失踪は知れわたってしまうと割り切るしかなかった。

一週間が過ぎたころ、一本の電話が入った。
子ども同士同じクラスで、妻と仲が良かった女性からだった。
実は、学校行事の打ち上げのお酒の席で、妻が耳打ちしてくれたというその内容だった…。

思いもよらない顛末が待ってい た。

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