日本を代表する自動車メーカーに勤める夫。有名大学の大学院を卒業して入社した、将来を嘱望されている35歳の気鋭のエンジニア。妻とは大学院の同じ研究室で知り合い、6年の交際を経て結婚した。妻は都内の一流電機メーカーに勤めている。共に東海地方の生まれ。2人は都内のマンションに暮らし、夫は新幹線で本県の事業所まで通勤、子供はいない。

 先月のこと、妻が都内から相談に来た。地味で穏やかではあるものの、語り口と説明は理路整然として無駄がない。内容は正月明けに夫が突然家を出てしまったという。妻は夫が仕事に明け暮れ、毎日のように仕事について夢や理想を話してくれる姿が好きだった。夫を全力で支えようと1年前に、やりがいを感じていた商品開発部のキャリアを断念し、出張や残業のない一般管理部門に転属を申し出た。そこまでして夫を支えようと思ったのにと話す妻は、ハンカチを手にしていた。

 思い起こすと、夫に変化の兆しが見え始めたのは半年前。それまでは、どんなに遅くなっても必ず帰宅していたが、休日であるはずの土曜日も仕事をすると言って、金曜日は帰宅しなくなっていく。妻はおかしいと思いつつも、全く疑いはしなかった。夫が仕事に打ち込むことは妻にとっての何よりの喜びだったし、もっと夫を応援したいという衝動にかられたと。「私、変わってますよね」と自虐的な笑みを浮かべていた。1月中旬、「君といるのに疲れた。1人暮らしをしたい」と、突然出て行ったという。行き先も教えてもらえず、妻は突然のことに狼狽(ろうばい)する余裕もなく、ただ途方にくれた。きっと仕事で行き詰まっていて、1人になりたいだけ、気持ちが落ち着けば帰って来るだろうと思っていた。年末年始休みには旅行もしたし、互いに笑顔もあったのだからと。ところが先月中旬、家を出てから1カ月が過ぎたころ、離婚したいと一方的に伝えられた。妻は、別居してからも体を気遣うだけで、一切責めるようなことはしなかった。それも、夫がいつでも帰ってこらえるようにとの配慮からだった。妻は、自分の気遣いが裏目に出てしまったという後悔になすすべもなく、都内の弁護士事務所に行った。そこで、「女の存在があるのでは…」と指摘され、初めてことの重大さに気づかされた。

 まずは、本人が何処に住んでいるのかを特定するのが先決。調査開始。夫が勤務する事業所は数千人の社員がいて、とても尾行できる環境にはない。しかし、GKがこれまで培った「行方不明者捜し」のスキルを生かし、2週間後に夫が暮らしていると思われる場所が特定できた。本県内であろうという我々の想定は、大きく裏切られた…。

後半に続く

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