【「結婚したい相手がいる…」と娘が連れてきた男性。「実家は鹿児島県の旧家。両親は健在で不動産産業を営んでおり、姉は開業医に嫁いでいる。自分は地元有名の私立高校を卒業後、アメリカの投資銀行に勤める兄の勧めもあり、アメリカの大学に就職に進学。帰国後はTV局に就職し、職場にほど近い高層マンションに叔母と住んでいる。兄とアメリカの友人との繋がりから、来年の夏までには米TV局に就職する予定。娘さんも連れて行きたい」と話した。

 娘は海外で働きたいという夢の実現に向けて仕事をやめ、渡米準備のため実家に戻った。しかし、その頃から相手の言動に不信感が募るように。父親が急死し兄の代わりに、葬儀・納骨・相続の件などをしなくてはならず、渡米は1年延期するとなる。これまで、一度も相手のマンションにいったこともない等々。次第に騙されているかもとの疑念が…(前回より)】

 調査開始。男の確かな情報は、本名と生年月日だけ。この情報から素性を割り出していく。真実は鹿児島が実家と、姉がいるということだけだった。実家は兼業農家で父親は公務員、姉は、独身でOLをしている。高校も地元の公立高校で、進学したのは大学ではなく、都内の英会話学校。渡米経験も、アメリカでのホームステイだけ。TV局勤務も偽り。業界は業界でもTV局ではなく、番組制作会社から美術・大道具を請け負う社員10名ほどの会社。年収も150万円程度で、住まいは上京してから住んでいる都下の築30年のワンルームで、家賃は3万円。

 つらい報告になった。両親は虚栄を見抜けなかったことで、自責の念にかられ言葉もでない。娘は、ただ呆然とし、怒りと悔しさから溢れだす涙を抑えきれなかった。

 その3日後、けじめをつけたいと再び相談があった。両親も落ち着き、娘も意を決した様に毅然とした態度だった。相手にはまだ、この事実をつたえていない。依頼は、来週、都内で男と会うので、謝罪させて幕を引きたい。しかし相手は攻撃性のある気質を持ち合わせており、不安なのでボディーガード(警備業認可)として同席してほしいというもの。

 当日、男はいつものようにホテルのカフェで、軽い笑みを浮かべながら娘の前に座る。背中越しに座る我々にまで、業界話をしているのがわかる。滑稽な奴としか映らない。そして我々は、男の両脇に…。

 最後の最後まであきれだ男だった。脈絡のない言い訳を並べ、会社と両親には内緒にしてほしいと懇願するだけだった。それから5日後、感謝の気持ちを伝えに事務所に来た依頼人は、凛とした美しい女性に戻っていた。

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