半年前に夫を亡くし手にした数千万円の保険金。
インターネット掲示板で手にしたお金のことを書いた。

信じられないぐらいの反応があり、ついに一人の男性と交際することに。
そして交際相手から、「お店 (水商売)をするのが夢なんだ。

物件の保証金等1000万円を立て替えてもらえないか」と懇願され、何のためらいもなく1000万円を渡した途端、
連絡がつかなくなった…。

手掛かりは、解約された携帯電話番号と黒のワンボックスに乗っていたということだけ。

所在調査は難航したが、2カ月後、ようやく男の住所が判明した。

千葉ではなく、埼玉県北部だった。
現地の状況を確認する。

そこは、郊外の農村地帯。
細い道路に面し、田畑に囲まれた広い敷地内に建つ平屋建ての一軒家。

母屋のほかに納屋がある。
そして、農業機械とともに黒のワンボックスがあった。

しかし、まだ断定はできない。
本人の映像をおさえて依頼人に確認してもらわなければならない。

張り込む位置が困難を極めた。
すぐ不審車両として通報されてしまうのがおちだ。
思案の末、玄関先がなんとか確認できる道路向かいの林の中に探偵を配置する。

7時すぎ、野良着姿の初老の女性が庭に出てきてビニールハウスへと消えた。
それから20分後、薄緑の作業着姿の30代とおぼしき男性が出てきた。
林に潜んだ探偵がその顔を撮影する。

この男が対象者なのだろうか?

すぐさまメールに写真を添付して依頼人に送る。
「間違いありません」と依頼人。

そして、男は黒のワンボックスを運転して家を出た。
待機させていたバイクで尾行する。
その後、男は勤務先と推定される音響機器メーカーの工場敷地内に入っていった。

後日の素性調査でその全容が明らかに。
男はこのメーカーの工員で、地元の農家へ婿養子に入った。
両親と妻は農業を営み小学2年生になる娘との5人家族だった。
交際中に語っていた名前も偽名だった。

後日、依頼人に報告。
しかし、彼の写真を繰り返し見たいと要求する依頼人。
貸したお金のこと、お金を返してほしいなどとは一言も言わない。
ただひとりの女として、「彼に会いたい‥」と涙する姿があった。
お金を取り戻してくださいとは一切言わずに、「一度だけ本人に会わせてください」と懇願する。

結果的に、われわれが仲介をして、会うことに。
対面当日‥。
「いいお店にしてね」と優しいまなざしで伝える女性がいた。

恨みつらみも言わない。
だまされてはいないと信じることで夢のようなひと時をけがしたくないとする凛(りん)とした恋する女性の姿があった。
われわれは何も言うことはできなかった‥。

※ 本文は依頼人の了承を得てプライバシーに配慮しています。

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