
2カ月ほど前の午前3時。電話が鳴った。
不思議なほど静かな夜なのに、聞きとれないほど声が小さい。
声のトーンから相当悩み苦しんでいるのが分かった。
相談者は県内に住む3歳の女性。
半年前に夫を不慮の事故で亡くし、小学4年生になる娘と暮らしているという。
相談したいので自宅に来てほしいとのことで、後日、女性スタッフを同伴して自宅を訪問した。
築30年は経過しているだろうか、敷地内に入った途端、木造平屋建ての家屋からは線香の匂いが漂ってくる。
庭も雑草が茂り、湿気のせいもあってか独特の匂いに包まれていた。
この荒れている様子から、精神的に相当疲弊していることを覚悟して自宅にあがった。
そこには、真新しい仏壇と亡き夫の遺影が目に飛び込んでくる。
化粧もせず、短めにカットされた髪は、どこか中性的な印象を受ける。
苦悩する表情の中にも、どことなく人のよさがにじみ出ている。
女性は、「話しにくいことなのですが…」と言ったきり、黙ってしまった。
そして10分後、ようやく声を振り絞るようにして出てきた言葉は、
「交際相手と連絡がとれなくなってしまった。お金も貸している。」
私たちの頭も混乱する。
夫を亡くしてまだ半年…交際 相手…お金…。
女性によると、夫が亡くなり保険金など数千万円のお金を手にした。
そして、インターネットの掲示板で夫を亡くした寂しさや手にしたお金などについて触れると、信じられないほどの反応があった。
正直これまで生きてきて、男性に相手にされたことはない。
いつも、恋愛は小説の中にしかなかった。
結婚も妥協の産物だった。
こんなにも、私を心配してくれる男性がいるんだ…と夢中になり、ついに、一人の男性と会った。
彼は、千葉から3時間もかけて来てくれた。
背も高いイケメンで、一緒に歩くだけで優越感に支配される。
今までのような自分じゃない。 この彼のおかげで輝いていける…。
もはや、そこには夫を亡くしたばかりという自責の念は跡形もなく消えうせていた。
彼はどこまでも優しく、何時間も話を聴いてくれた。
そして、3回目のデートのとき、勇気を振り絞って自分からホテルに誘った。
夢のようなひとときだった。
それから千葉からくるたび、車代として10万円を自ら渡すようになっていた。
そして2カ月後。
ホテルでの情事の後、「お店 (水商売) をするのが夢なんだ。いい物件があった。
物件の保証金等1000万円を立て替えてもらえないか」と懇願され、なんのためらいもなく翌週には現金を渡した。
その日の彼は、不動産会社に行くからといい、デートもせずにとんぼ帰りをした。
その後一切連絡がとれなくなってしまった…。
※ 本文は依頼人の了承を得てプライバシーに配慮しています。