【交際相手に妊娠したと告げた翌日、携帯電話が解約されていて連絡がとれない。中絶手術もした。お金も貸している。暴かれた男の正体とは?】。
手がかりは解約された電話番号とメールアドレス、勤務先の名称、そしてシルバーのセダンに乗っていたということだけ。
所在調査は難航したが、1ヵ月後、男の住所が判明した。
日が昇ると同時に、現地の状況を確認する。
そこは郊外の農村地帯。
細い道路に面し、田畑に囲まれた2階建ての1軒屋。
母屋のほかに、納屋があり、農業機械とともにシルバーのセダンがあった。
しかし張り込む位置が困難を極めた。車を止めておける位置など皆無の場所。
思案の末、玄関先がなんとか確認できる道路向かいの休耕田の朽ち果てたポンプ小屋に探偵を配置する。
午前7時すぎ、初老の男性が庭いじりをはじめ、幼女が庭先に姿を見せた。
それから30分後、30代と思しき男性が出てきた。
ポンプ小屋に潜んだ探偵がその顔を撮影する。
この男が対象者なのだろうか?依頼人に確認してもらわなければならない。
すぐさまメールに顔の影像を添付して依頼人に送る。
「間違いありません」と依頼人。
そして男は、シルバーのセダンを出して子供とともに家を出た。
待機させてあったバイクで尾行する。
その後、対象者は市内の保育園に子供を預け、勤務先と推定される建物に入っていった。
そこは県の外郭団体のような組織だった。後日の素性調査でその全容が明らかに。
対象者は準公務員のような立場で広報誌を配布する仕事に就いていた。
両親は農業を営み、妻は病院の看護師、5歳 になる娘の5人家族だった。
結局は、勤務先も独身寮に住んでいるということも嘘(うそ)。
名前も1文字変えていた。
女性の心の寂しさにつけこ み、体をもてあそび、中絶という十字架を背負わせた卑劣な男。
しかも、結婚という甘言を武器に金まで無心した。それが男の正体だった。
後日、依頼人に報告。
あまりの嘘の固まりに茫然 (ぼうぜん)自失。
騙された自分も悪いと悔し涙が化粧を壊す。
「借用書もない、中絶した相手 その男であるという証拠もない」。
つまり、警察にも弁護士にも相談できない。「どうしたらいいの・・・」と自分を責め立てる。
なんとか救いたい。
探偵は弱者の味方であるべき。
警察や弁護士ができな いことを真摯(しんし)に解決するのが使命であるはず・・・。
数日後… 男の仕事が終わり 車へ戻ってくるところを…。
結果的に、男はすべての事を認め、金銭の返還、中絶費用の負担等依頼人の要求に応じ全面的に謝罪した。
依頼人には、今度こそ幸せになってもらいたい。そう願わずにはいられない調査だった。
*本文は依頼人の了承を得てプライバシーに配慮しています。