「息子を捜してください」と70歳になる母親。

顔に刻みこまれた皺(しわ)と束ねただけの白髪が、悲壮感に追い討ちをかけている。
息子は、一流国立大学を卒業し、政府系金融機関へ就職した。
勉強がよくでき、優しく、争いごとが嫌いで、極端に気の弱いところがあったと振り返る。
母親は、勉強よりも男としてたくましく育ってほしいと武道を習わせたが、優しくて気の弱い内面が変わることはなかった。

息子は入行後、ある東北の支店に配属になった。
それが1年前のこと。それから2年後、息子の勤務する上司からの電話。
「息子さんが、ここ3日間出勤していません。 実家に戻っていませんか?」
両親は、その事態を飲み込めなかった。まさに青天の霹靂(ヘきれき)。
翌日には東北に飛んで、説明を受けた。

ここで両親はただ愕然(がくぜん)とした。
上司からの説明は、さも 管理責任を問われ昇進に響くかのごとく、迷惑そうな物言いで、この期間を過ぎますと退職とか、
親の胸のうちなど斟酌(しんしゃく)してはくれなかった。

結果的に数ヵ月後、退職扱いとなった。

愕然とした両親だが、帰りを信じて、家賃半年分を前払いしてきた。
そして、母親だけが数日間アパートに残り、荷物を整理した。
そこで見つけたメモには、社内の学閥による疎外感と不信感をにおわせる一文があった。
母親は、気の弱い息子がどれほど辛かっただろうと嘆き泣きぬいた。

唯一、残された手がかりは仕送り用にと学生時代から継続して使っている通帳だった。
キャッシュカードは本人が持っているはず。
それから母親は、通帳記帳が日課となった。

それから1年あまり。足取りを追うと、北陸・関西・四国・九州などで引き出している。
残高も少なくなりやっと落ち着いたのが、沖縄県だった。

それから毎月、手がかりをきらすまいと、10万円を17年間振り込み続けてきたのだ。

その間、警察にも相談した。タウンページで見つけた悪徳探偵にも大金をだまされた。
夫も息子の帰りを待つことなく、3年前に他界した。
そして人生の最後にと、GKに託した。

「息子を捜して連れて帰ってください」と。探偵の魂に誓ってなんとしても見つけ出さなくてはならない。
それからGKグループの総力を結集した捜索が始まった。

そして、15日後、息子を確保した。
ホームレスと見間違うくらい 変わり果てていた。仕送りだけで生活し、本だけを心の友として生きていた。
「見つけてくれてありがとうございます。親に申し訳なくて、帰るに帰れませんでした」とうつむいた。

母親に電話した。
息子に代わる。沈黙が続く。
そして、「ごめんなさい。お父さんは?」その問いに、父親が他界した事実を知った。
衝撃の大きさに涙も出ないのだろう。
ただ、体が異常なまでに震えていた。私たちに掛けられる言葉は見つからなかった。

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