東海のある都市から相談に来た50代の夫。
製薬会社の研究者と役員という重責を担っている。
妻はある大学病院の医師で、年に4、5回、学会などで出張する。
それは北海道から九州まで全国各地にわたる。

夫は1年程前から妻の浮気(不貞)を疑うようになった。
振り返れば、下の子が大学生となり家を離れた時期と合致する。
夫婦の世界に突如として現れたエアポケットのような空間。ふと気がつくと、これまでの会話は息子に関することばかりだった。

いざ二人きりになると、会話という会話にならないもどかしさにいら立ちを覚えてしまう。
そのいら立ちが何かのまるで布石となったように、1年程前から、妻が夫の肌をする忌避するようになった。
触れられたくないというような雰囲気が蔓延(まんえん)し、結局、寝室も別々となった。

妙な違和感を感じ取った夫は、過去3年にさかのぼり、妻が出席した学会の内容とメンバーを調べた。
すると、学会のプログラムと妻の専門分野とはまったく関連のないものが半分もあった。
さらには、夫が妻の不倫相手ではないかとにらんでいた大学教授が、すべて関係者として出席していた。
今回、宇都宮でその学会がある。プログラムも妻の分野とは関係がない。
やはりその大学教授が出席する。

出張の前日、夫は 葛藤(かっとう)に苦しむ。
妻の持ち物を見たい。しかし、男としての自尊心がその邪魔をする。

結果的に、自尊心が負けた。
ついに、妻の入浴中に妻のボストンバッグの中を見てしまった。

そこには、50歳の女性がとても身に着けるとは思えない派手な下着が隠されていた。
見えない嫉妬(しっと)に胸がやけ、体が震えた。愛していたほどに、夫の心は苦痛から激痛になった。

相談に訪れた時の、知的で凛(りん)とした夫の姿は、次第にただ悩めるひとりの男
性に姿を変えていった。「真実を知ること!」これが最後に残された男としての、自尊心だった。

調査当日、プログラム終了2時間前の休憩時間に、妻が会場を後にした。
享受は出入り口近くのソファーで携帯を取り出す。と同時に県庁前交差点付近を歩いている妻の携帯が鳴った。形態を口にする妻のにこやかな表情がこの後に起こりうる事態を想定させた…。【後編につづく】

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