夫は、現場の仕事を切り上げ、大型入浴施設に行き、それから宇都宮中心部のパチンコ店に入った。
探偵は、夫の背中合わせの右側に位置取り、パチンコ台のガラス越しにその様子を注視する。
パチンコの玉がすべて吸い込まれたと同時に、携帯を片手にそのまま車へと急ぐ。向かった先は、若者向けの有名ブランドが多く入っているショッピングビルの裏手。
スタッフ出入り口から、流行の服に身を包んだギャルといわれるショップ店員らしき女性が出てきて、助手席に身を沈めた。

4号線に出た車は、南へ向かい、宇都宮駅から数駅先の、ある駅前のコインパーキングに駐車した。
二人はそのまま駅構内へ向かい、夫の指は、券売機の「渋谷」の文字にタッチする。チャージ式のカードでないことが幸いした。カードだと行き先が想定できないからだ。

ここで、地の利のある「GK渋谷」の探偵をホームで待機させ、渋谷で降車した二人をピッタリとマークさせる作戦にした。
最終的に、二人は雑踏を円山町(ラブホテル街)へ縫うように抜けて行き、そのうちの1軒に入った。カップルを装った探偵も続く。

ロビーには、各部屋の内装写真を展示したパネルがあり、それが点灯することで空き部屋を示すシステムになっているが、最初は満室で、小さなカーテン で仕切られた待合に行った。
隣の待合ではその会話に耳だてる探偵がいる。

10分もすると次々とパネルが点灯し始めた。
二人が点灯するパネルを押し、夫が女性の腰を抱いてチェックインする映像を押さえた。
探偵はそのままロビーに残り、他利用客がどういうふうにホテルを出て行くのかを確認する。すると、すべての客がホテルの入り口とは反対側に向かう。出口が人目につかないよう配慮されているのだ。
これをもとに、翌日、夫と女性の鮮明な姿をとらえた。

後日の素性調査で、その女性は、人気ブランドの販売員 で、19歳であることが判明した。
調査報告の日、妻や両親にはまったくといっていいほど悲壮感はなく、証拠を手に入 れたその表情は、人生の転機というような力強さが見えた。やはりそこには、妻の腕に心地よく瞼(まぶた)を開じている天使がいた。

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