警察に勤務している親族に相談してGKを勧められたという40代の母親と祖父母が相談に来た。今年短大2年になった19歳の娘が学校を休み、家にも帰らなくなったという。その動機を探るため母親に話を向けていくが、信じがたい話を聴くことになる。
母親がまず話し始めたことは、娘の全人格の否定。娘が生まれてすぐ離婚した夫の酒乱と暴力の出来損ないの血を引いているとか、話を聴く私たちにとって信じられない言葉が耳をついてくる。母親は18歳で身ごもり結婚。半年後に娘が生まれたが、夫の酒乱と暴力に耐えかね3歳になった娘と実家に戻る。それからというもの、母親・祖父母の眼が娘に向けられた。明らかに常軌を逸していると思える娘に対する過干渉と人格の否定。「娘はあの男の血を引いているから、私たちがきちんとした道を進ませなくてはいけない」と話す母親の眼鏡の奥には不気味な冷酷さが垣間見えた。
自分の教育は絶対に間違っていない、悪いのはすべて娘だと、怖いほどの思い込み。これまで数多くの子供たちの家出捜索に携わってきたが、みな一様に悲壮感と心配に満ちていた。ここまで娘のことを否定する親は初めてだった。複雑な思いが交錯する中、最優先すべきは娘の身の安全と、わずかな手掛かりをもとに捜索にあたる。そして捜索して11日後、東北地方の派遣型風俗店(通称:デリヘル)で働いていることが判明した。客を装い娘と似た雰囲気の女性を呼ぶが、店のホームページの写真は女の子の目線が隠されているなどさまざまな加工が施されてあり、娘であるかの判別が難しい。結局は3人目で出会うことができた。
事情を説明する。娘の眼はどこか遠くを見ているようで眼を合わせようとはしない。19歳という希望に満ちた輝きもなく、ただどんよりした雰囲気が覆っている。沈黙の重苦しい空気だけが支配する。娘が意を決したかのようにつぶやく。「自由になりたい…」。そして、「帰りたくない」と。時間をかけて少しずつ心の内を話し始めた。「母親と祖父母の言うがままに振る舞わなくてはならない。私は服飾関係の仕事につきたがったが、無理やり短大に進まされた。試験の成績が悪いと、あの男に似たからだと叱咤(しった)され、産まれてこなかったほうが良かったと何度思ったことか分からない。母親・祖父母の父親に対する憎悪がすべて私に振り向けられているんです…」。
正直、話を聴く探偵も心が苦しくなる。しかし、仕事として娘を連れて帰らなくてはならない使命がある。複雑な心境に陥りながらも、連れて帰るしかなかった。あの娘の悲しみに漂う眼を忘れることはないだろう。ただただ、娘に明るい未来が来ることを願うばかりである。