県内に住む40代の妻が相談に来た。内容は夫の不貞疑惑。 夫は妻よりも6歳年下 で、都内へ新幹線通勤している重機メーカーの研究職。夫が大学院の研究生、妻が看護師として都内の病院に勤務している時、友人の紹介で知り合い、4年の交際を経て結婚。妻の実家のある栃木県内に一人暮らしをしていた母親と同居するために、2年前に家をリフォームして現在は7歳になる娘と4人暮らし。大学院生時代、研究に明け暮れる毎日で経済的にも困窮していたこともあり、身なりもまったく構わない一見変人のような夫を、妻は生活全般に渡って支えた。夫が必死で論文に向き合う姿が何よりも好きだったという。そして、第一志望の会社に入社して順風満帆の結婚生活が始まった。妻は、近くの老人ホームの看護師 として勤務している。
妻が、夫の行動に一抹の不安を感じたきっかけは、夫のバッグの底に、「消費者金融のカード」を見つけたこと。また、平日ではなく、土日を挟んでの出張も多くなったこと。夫はお酒も飲まず、おしゃれには無頓着で、趣味と言えばもっぱら読書。社交的でもなく友達付き合いもほとんどない。結婚当初から、月4万円の小遣いも余らせてくるほどだった。妻も出張でお金が入用だから、私には言いづらくて消費者金融から借りたのだろうと、夫には追及せずに様子を見ることにしたという。
一方で、妻の中で何か釈然としない 思いが次第に膨らんでいった。そんな娘の様子に気づいた母親は、下野新聞連載「探偵シリーズ」の15年来の熱心な読者でもあったことから、調査してみればとアドバイスされたという。母親いわく、何もなければそれに越したことはない。まずは真実を知ることが一番と調査を勧めてくれたという。
調査開始。土日を含めて北陸の工場へ出張という日に調査を開始した。駅までは妻が車で送って来る。降ろした場所は打ち合わせ通り。夫はスーツに黒い大きなリュックを背負っている。みどりの窓口に並ぶ。探偵たちもその後ろに並び、会話増幅装置を耳に挟んだ探偵が、夫の行先を把握する。すると、行先は妻に伝えておいた北陸ではなく、大阪までの新幹線の切符を購入したのである。すぐさま妻に連絡して、大阪までの尾行の了解を得る。夫はまったく警戒する様子もなく、書籍を広げて、独り言をつぶやきながら、時折、瞑想(めいそう)するなど、スマホを手に取ることもない。東京駅での乗り換えにも誰とも合流することなく大阪行き新幹線へ乗車した。そして、夫がトイレのために席を離れたとき、座席の上に置かれた書籍を確認した。それは、仕事の専門書ではなく、これからの行動を想定するための大きな手掛かりとなるものだった。