「…娘の顔は苦痛に歪んでいた。左頬が時たま痙攣している。
15歳という溌剌(はつらつ)さはなく、ただ鈍よりした空気をまとっている。
口も開こうとはしない。 沈黙だけが支配する。

そして、意を決したかのようにそっぽを向いたままようやく口を開いた。

「帰りたくない…」と。
18歳の娘の悲痛な叫びが脳裏から離れない…。」

警察に勤務する親族からGKを紹介されたという母親と祖父が相談に来た。
短大に通う18歳の娘が家出をしたという。

母親は、家を出た理由はわからないと口火を切ると、これまでの生い立ちを話し始めた。
母親は20歳で結婚した。
翌年娘が生まれたが、夫の酒乱と暴力に耐えかね2歳になった娘と共に実家に戻った。

それからというもの、この家庭のすべての眼が娘に向けられた。
娘の成長だけが生きがいとなった。

徐々に見えてきたのは、明らかに異常ともいえる娘に対する母親と祖父母の過干渉と過保護と人格の否定だった。

次第に家庭の歪みが明らかになっていく。
母親の眼鏡の奥にある眼は吊り上がり、その口調も剣がある。

酒乱だった夫の血を引いてどうしようもない娘と、何度口にしたかわからない。
娘の悪口しか出てこない。
揚げ句の果てには、娘は夫似だからブスで頭も悪いというような信じられない言葉を吐く。
そこから見えてくるのは、自分の意のままに娘を育て、あやつり人形のようにしか考えていないことだ。

自分の教育は絶対に間違っていない、悪いのはすべて娘だと、怖いほど自分中心の思い込みと態度。
これまで、子どもたちの家出捜索に数知れず関わってきたが、みな一様に子どもたちを心配して食事も通らないほど悲壮感を秘めていた。
これほどまでに子どものことをこき下ろす相談者は初めてだ。
しかし、 娘はまだ未成年。
最優先すべきは身の安全と、気持ちを切り替え調査を開始した。

GKグループの探偵を総動員して残されたわずかな手掛かりで捜索にあたる。
依頼人である母親からは、半日と間をおかずに「見つかりましたか?」と確認の電話がかかってくる。

捜索開始6日目、隣県の派遣型風俗店で働いていることが判明し、客を装いその娘を呼んだ。

娘は、「帰りたくない…」と、 次第に堰を切ったように話し始めた。

母親と祖父母の全て言うがままに振る舞わなくてはならない生活に耐えられないと、その鬱憤を投げつけてくる。

しかし未成年であり、仕事として娘を連れ帰らなければならない使命がある。
複雑な心境になりながらも、半ば強引に連れて帰った…。

その後、弊社のカウンセラーが間に入り、関係修復のための話し合いを続けている。
娘が18歳らしい溌剌(はつらつ)とした人間になれることをただ願うばかりである。

※ 本文はいくつかの事例を基に構成されています。盗用・無断転用・無断転載を禁じます。

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