
依頼人は35歳の女性。
小学生の子どもを持つ母親である。
仕事は、ショッピングモールの衣料品店の店頭に立っている。
程よく整った顔立ちと細身のスタイルが人目を引く。
しかし相談に訪れた彼女は、化粧が台無しになるほどに涙で顔を濡らす。
「私がばかでした‥」と言葉を詰まらせる。
そして発した言葉は、W不倫の果てに相手の彼からストーカー行為を受けているというもの。
その彼というのは、LINEで知り合ったハウスメーカーの営業マンだった。
夫は県内事業所の閉鎖に伴い、春から九州の事業所に単身赴任している。
3カ月に1度帰省すればいいほうで、普段は二世帯住宅に同居する舅 (しゅうと)、
姑 (しゅうとめ) に気兼ねをしながら子どもを預け仕事をしているという。
農家だった舅姑は何かにつけて厳しく、そこから解放されたらどれだけ楽になるのかと思いをはせない日はない。
寂しさとむなしさに押しつぶされそうになる。
次第に広がる「心の隙間」。
その彼と会うようになるまで時間はかからなかった。
一回り年上の彼は、俗にいう「イケ面」とは違ったが、真面目で笑顔を絶やさない人だった。
男というよりよき相談相手、友人のような存在にしか感じられなかった。
彼は嫌な顔ひとつせずに愚痴を聞いてくれた。
それだけで救われた。
気がついた時には決して他人には話すことができないプライバシーの奥深くまで話していた。
心が丸裸にされたようになっていたと振り返る。
しかし、深い関係にはならないと決めていた。
彼も積極的に求めてくることはなかった。
今思えば、「魔がさした」としか言いようがないと後悔する。
ある日の姑の言動が許せず、大げんかになった。
そして、彼に連絡をとると、話を聞くからと慰められた。
そして、ゆっくりと落ち着ける場所で話した方がいいとホテルに連れていかれた。
動揺していた妻は、抵抗することなく彼に従った。
それから、週に1度のペースでホテルでの逢瀬を重ねていく。
そんな関係が続くこと2カ月、夫が4カ月ぶりに帰省した。
寡黙な夫は、会社でつらい立場にあるはずなのに愚痴ひとついわず子どもたちに愛情をそそぎ、
両親と同居していることに心からのねぎらいの言葉と優しさを向けてくれた。
夫が九州に戻った後、いいようのない自己嫌悪にさいなまれ続けた。
そして、彼に別れを告げた。
しかし、彼は納得できないと追いすがってきた。
昼夜かまわずに携帯が鳴る。
着信拒否にする。
彼の行動は次第にエスカレートし、勤務先の駐車場にまで姿を現すようになった。
身の毛もよだつ恐怖が体を支配する。
警察に相談して被害届を出そうと思ったが、お互いの家庭に不倫がばれたらと思うと、怖 くて踏み出せなかった‥。
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