弁護士からの紹介で、東京都下から相談に来た30代の妻とその娘。

地味で穏やかな印象を受ける妻の目は既に潤んでいる。
娘が状況を話し始めた。

父親は勤務する大手金属メーカーの工場移転により、栃木県に単身赴任してから6年がたつ。
母はパート勤め、自分は地元の信用金庫に勤務しているという。
父親は工場近くの独身寮に住んでいる。

転勤当初は月に1、2度、必ず帰省し、家族と過ごしていた。
家族もそれを楽しみにしていたが、4年くらい前から、畑を借りて始めた家庭菜園の手入れがあるといって、
帰省することが少なくなってきた。

それでも、年始年末は自宅に戻り家族との時間を共有していた。
定年まであと5年、これまで家族のために働いてくれた感謝の気持ちから、
単身赴任中くらい夫を自由にしてあげようと何の疑いも抱くことなく月日が過ぎていった。

しかし、とうとうここ2年は一度も帰省することがなくなった。
携帯もつながらない日が増えていく。
娘は、「父親に女性がいるのでは」と 母親に進言したが、母親は元来人を疑うということを知らない性質で、
気にもと めなかった。

だが娘の疑念は増していく。
娘の説得に母親も折れて、今年1月の週末、突然寮を訪問した。

管理人に父親を呼び出してもらう。
父親は寮にいたが、面会室に座ることもなく、いきなり家庭菜園を案内するといい、
車で20分ほどの畑に連れていかれた。

よく手入れされた10坪程度の畑。
手入れに必要な道具や肥料を保管している物置を開けて説明し始めた夫の姿を目にして、
妻のわずかな疑念は吹き飛んだ。

しかし、娘は違った。
突然の訪問に戸惑う父親から発せられる空気を見逃さなかった。
言いようのない不安を感じ、父親と言葉も交わさずに母親を連れ帰ったという。
父親は引き止めもしなかった。
娘は、母親に調査することをすすめたが、結局は聞く耳を持たなかった。

そしてついに、娘の不安が的中した。
訪問してからわずか1カ月足らず。

夫の代理人という弁護士から、「離婚したい」との書面が届いた。
突然のことに茫然自失となる。
悲しいというより現実を受け止めることができない。

それ以降は妻や娘の携帯からの電話に一切出ることはなくなった。
数日後、栃木県の法テラスで紹介された弁護士のもとを訪れた。

弁護士からの「女性の存在を疑うべき」とのアドバイスと、娘の説得に応じて真実を探るべく調査開始。
平日は工場と寮の往復だけ。
そして週末になった。

着替えた夫が出てきて車に乗り込む。
穏やかで口うるさくない妻の足元を見透かしたような夫の真実が浮き彫りになっていく‥。

※ 本文はいくつかの事例を基に構成されています。盗用・無断転用・無断転載を一切禁じます。
 本文は依頼人の了承を得てプライバシーに配慮しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です