
「ここ数年、男女関係の新たな時代を感じさせる出来事がある。
浮気調査といえば、これまでは夫の浮気に悩む妻からの依頼がほとんどだった。
しかし、今では妻の浮気の占める割合が夫のそれを超えた感がある。
ちまたでは、よく草食系男子、肉食系女子などと耳にするが、その事実が浮き彫りになった形だ‥。」
弁護士から証拠を手に入れなさいと叱咤(しった)され、GKを紹介されたという40代の男性。
父親が創業した工務店の二代目。
工務店といっても、夫婦と職人2人とで営む家内工業のような形態で、仕事のほとんどが請負で成り立っている。
男性は、都内の有名私立大学を卒業後、大手通信機器メーカーで携帯電話の設計技師として勤務していた。
しかし一人息子である彼は30歳までには家業を継ぐという条件で都内の大学に通わせてもらった。
昔気質な父親の命令に逆らうことは許されなかったのだ。
23歳の時に地元へ戻り、父親の言うままに遠縁にある女性と結婚した。
救いだったのは、妻を心の底から好きになったことだった。
女性との交際経験が少ない彼にとって、気の強さと優しさを兼ね備えた
母親のような妻の気質にほれたことで、後を継いだ後悔の念は次第に消えていったという。
父親は3年前にガンを患いこの世を去った。
夫からは職人が持つあくの強さ、男らしさという雰囲気は皆無で、
気弱で真面目な会社員というにおいしか感じられない。
心なしか眼鏡が曇っていた。
うつむき加減なその表情は、男というよりは、夫の浮気に悩む一昔前の女性のようだ。
妻の変化に気付いたのは半年ほど前だという。
「冷たくなったというか、避けるようになったというか‥」。
妻の気を引こうと機嫌を取るたび、顔色をうかがうたびに、
その態度はどんどん増長していったように感じると嘆く。
子どもの学習塾の送り迎えも、今では途中帰宅することなく、約3時間どこかで時間を過ごしている。
悪い妄想が膨らんでいく。
まさか浮気?という思いと、愛する妻を信じたいという気持ちが交錯する。
昼夜問わず、頻繁に鳴る妻の携帯電話のメール着信音。
気にしないようにと努めていたが、ふと目にした「探偵シリーズ」を読んで、
気持ちのたかぶりを抑えられなくなった。
数日後、自責の念に駆られながらも妻が寝入った後、携帯電話に手を伸ばした。
ロックはかかっていたが、若かりしころ、その道の技術に精通した夫にとっては
他愛もないことだった。
そして、ついに禁断のメールをのぞいてしまった。
全身の毛が逆立った。
それからはメールの確認が日課となり、眠れない夜が続いた。
日々のメールには、妻の浮気を疑う余地のない赤裸々なやり取りが記されていた‥。
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