「娘が突然、籍を入れたいと言ってきた」と、栃木県北から来た50代の夫婦。
その表情や互いの顔を見合うその所作は、信頼感が醸成されている夫婦であることが見て取れる。

この夫婦は、栃木県北で開業医をしている。
2代目である父親は、先生として地元で慕われてきた。

子供たちに跡を継がせたいと願っていたが、妻の体の事情もあり子供は娘一人しか授からなかった。
娘は3歳から始めたピアノの才能に恵まれ、一生懸命取り組む姿を見て、医師になることを強要しなかった。

都内有名私立高校に入学させ、親族の家に下宿させた。
そして大学入学を機に、一人暮らしをしたいという娘の希望をかなえた。

栃木県内ではその才能は秀でていたが、東京、まして全国となるとその実力は無にひとしかった。
娘はピアノに見切りをつけ大学を中退して服飾の専門学校に入学してしまった。

娘は現実の壁にぶつかり悩み苦しんだのだろう、と母親は涙をぬぐう。

大学を卒業したら栃木へのUターン就職は暗黙の了解だった。
ところが娘は、都内のアパレルメーカーに就職してしまった。

安い給料でひもじい思いはさせたくないと仕送りを続けた。

そして先月、突然籍を入れたいと言ってきた。
まさに、夫婦にとっては青天の霹靂。
とりあえず男性についての話を聴くと、離婚歴がある一回り年の離れた38歳で印刷会社に勤務しているという。

もちろん、良縁であれば祝福したいどころか願ってもないこと。
しかし、娘の話を聞く限り全く素性の分からない男である。

そこで、両親はまず会ってみることが先決と考え、娘に話したが、1ヵ月過ぎても理由をつけて帰省しない。
思い余った夫婦は、娘が住む都内のマンションに出向いた。

非常緊急用に合鍵は持っている。
娘の不在時に入室するのは後ろめたかったが、そんなことはいっていられないとドアを開けた…。

部屋は惨憺たるものだった。
ゴミは放置され、いたるところに男性の衣服が散乱していた。
夫婦はショックのあまり、何もできずにマンションを後にした。

調査開始。
その男の正体は、風俗店の店長で、前科もあった。

異様なまでに目つきが悪い。娘も、とうの昔に会社を辞め、系列の風俗店で働いているという驚愕(きょうがく) の
事実が判明した。

このつらい結果に夫婦は瞠目したまま顔をあげることもできなかった。
そして、身辺警護として夫婦に同行し強制的に娘を栃木へ連れ帰った。

最初は何かにつかれたように頑なな態度をとっていた娘も、両親の愛情あふれる態度と
母親の涙を見てついに崩れおちた…。

現在、安全を考えアパートで母親が寄り添い娘の心のケアをしている。
笑顔が戻る日は遠くないと信じて、 我々も警護を続けている。

※本文はいくつかの事例を基に構成されています。盗用・ 無断転用・無断転載を一切禁じます。
 

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