
相談内容は、妻の浮気疑惑。
栃木県南から来た夫は勤務医、妻は大手ファーマシーの薬剤師をしている。
夫は医師というより、真面目さを絵にかいたような地味な公務員という風体にしか見えない。
妻は内向的な学者肌の夫とは対照的で、薬剤師の傍ら、薬剤師で組織するボランティア団体の役員として活動している。
月に1、2回の出張は、北海道から九州まで全国各地にわたる。
夫は、1年半ほど前から妻の浮気(不貞)を疑うようになった。
振り返れば、一人息子が医学部に合格して家を離れた時期と合致する。
夫婦の世界に突如として現れたエアー ポケットのような空間。
ふと気が付くと、これまでの会話は息子に関することばかりだった。
息子の存在そのものがこの家庭の支柱のような役割を為していたと気付いた。
勤務時間の不規則な夫ではなく、息子の塾の送迎から学校行事など何から何まで妻が関わってきた。
いざ二人きりになると、会話がない。
夫は酒も飲めず趣味もない。
医者だからといっ女性にもてるというよう世間一般の印象などは偶像にすぎないと、自分をどこか卑下していた。
夫は妻を愛していた。
夫には現在も過去も、妻が唯一無二の女性だった。
夫婦間に次第に生じてくる隙間。
どうしていいか分からない夫は、そのもどかしさにいら立ちを覚えてしまう。
そのいら立ちが何かのまるで布石のように、1年ほど前から妻が夫の肌を忌避するようになった。
触れられたくないというよう な雰囲気が広がり、結局、寝室も別々となった。
夫が妻の写真をおもむろに出してきた。
息をのむとはこういう感覚なのだろうか?
3年前の写真というが、その透明感のある美しさと漂う品格に驚いた。
とても 45歳とは信じられない。
誰しもが、この妻を美人というに違いない。
写真を見せた夫には、誰しもが「きれいな方ですね」という言葉を発することを心得ている
優越感のようなものが見て取れた。
その妻が来週末、ボランティア団体の役員会のため、1泊で名古屋に行くという。
その日から調査してほしいというものだった。
調査の決断は、妻の不在時に見たクローゼットの奥にひっそりと隠れるようにあった
目にしたこともないような、数枚の派手な下着。
嫉妬に体が震えた。
愛していたからこそ、夫の心は苦痛から激痛になった。
相談に訪れた時の真面目な夫の姿は、嫉妬に苦しむただの男になった。
「真実を知ること」これが 最後に残された男としての自尊心だった。
調査当日。
妻の艶やかな化粧と華やかないでたちは、この後に起こりうる現実を想起させるには十分だった…。
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