朝5時を回った。ようやく陽が昇ってきた。
凍てつく寒さの中でこの陽はありがたい。

急に気温が上がるわけではないが、その明るさに触れることにより、気持ちがリセ ットされたような感覚と、
新た な集中力がみなぎってくる。

いつ、ホテルのドアが開くか分からない。
張り込みは辛抱との闘いだ。
ちょっとの隙や気の緩みで、それまでの苦労が水の泡になってしまう。
必ず証拠を押さえる。怒りに震 え涙にくれる母娘のために‥。


3カ月ほど前のこと。 母親に連れられた娘が来た。
出産 2カ月後に控える、まだ幼さが残る2歳の妻だった。

母親が話す横でうつむいたまま何も言葉を発しない。
母親は、長くなりますと前置きして、生い立ちから話を始める。
娘が3歳のとき、夫の酒乱が原因で離婚した。
それから母娘の2人で生きてきた。
母親は、娘を育てるためパートを掛け持ちして、幼稚園の先生になりたいという娘を短大までいかせた。

しかし夢はかなわず、娘は地元工場の事務員として社会人をスタートさせた。
母親思いで、口ごたえなど一度たりともしたことがないという。

しかし、思い もかけないことが。
娘から妊娠したと告げられた。
男性 と交際しているとも聞いていなかった。
よりによっていきなり妊娠とは。
追及すると同工場に勤務する一回り上の男性だった。

男性を自宅に呼んだ。
正直良い印象はなかった。
どこか浮ついている感じと、その話しぶりと調子の良さ。
妊娠についての謝罪もない。

しかし、 男性の話す横顔を見つめる娘のまなざしは、父親を知らず、恋愛経験もほとんどない娘にとっては
唯一無二の存在なの だろう。
すぐ籍を入れるとい う男性の言い 分で幕を引い た。

同時に娘は退職して男性の住むアパートへ移った。
娘が実家にくることはなくなった。
電話をしてもどこか歯切れが悪い。
私が原因で夫婦が仲たがいしてはいけないと、寂しさを封印した。

それから半年、娘が突然家に来た。
娘は、重い口を開いた。
2人で暮らし始めると夫はすぐに本性を見せたという。

家にいるときは、俗にいう 「ネトゲ廃人」のように、ゲー ムばかりに興じている。
おなかの子どもに対する気遣いもない。
さらには、実家には行くな、母親によけいなことは言うなとくぎを刺され、無断外泊も増えていった。

公然と浮気しているようなことも平気でうそぶいた。
意見を言おうものなら、夫は恐ろしい形相で部屋をめちゃくちゃにする。

娘は委縮するだけだった。
母親は、怒りに震えた。
進言したところで、きっと娘が報復されるだけ。
不貞を暴き、 徹底的に闘うと怒りに震えた。

調査開始。
そこには自堕落な夫の姿が浮き彫りになっていく…

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