隣県から相談に来た30歳の妻。
両親と幼子を連れ立ってきた。
子供の無邪気な笑顔とは対照的に重苦しい空気が事務所に漂う。

父親は怒りを自分が全て吸収したような険しい顔つきをしている。
母親は子供をあやし、娘はただひたすらうつむいたまま。
ようやく重い口を開いたのは父親だった。

次第に事の顛末 (てんまつ)が見えてきた。
夫は国家公務員で一回り年上。
ことの発端は、4カ月前、送付されてきたクレジット明細書。
無意識のうちに中身を見てしまった。

そこには、勤務していた平日なのに、最寄りのICから那須ICのETCの利用明細が載っていた。
夫の勤務形態上、他県に、それも自家用車で出張することなどありえない。

さらに、同じ日の那須のレストランの利用明細もあった。
このレストランは、交際していた時、よく連れて行ってもらった場所。

我慢できずにそれらを問い詰めた。
すると、夫は豹変した。
夫婦間にもプライバシーがある…等、論点をすり替え怒鳴り散らしたあげく、家を出て行ってしまった。
それから戻ることはなかった。

妻は、自分を責めた。

その理由は5年前にさかのぼる。
夫の勤務先に派遣で3カ月間勤めていたときに、恋に落ちた。
妻子あることを知っていたのに、その優しさに抗 (あらが) えず、深い関係になった。

身を引かなくてはいけないという想いとは裏腹に、関係は半年続いた。
土日は会えない。
電話をすることもできない。
少しでも楽になりたい、土日の空白を埋めたいと友達の紹介で無理やり彼氏を作って忘れようともした。

でも、楽になるどころか、反対に夫の良さを思い知らされるだけ。
想いは留まるところを知らず増幅していった。

結局、それから半年が過ぎた。
すると、思いもよらないことが起こった。
離婚するなど一度も口にもしなかった夫が、離婚したから一緒になろうと言ってきた。

そして1年が過ぎ、両親に打ち明けた。
こんなにも恐ろしい父親の形相は見た事がなかった。
「妻子を平気で捨てるような男に娘はやれない」と一刀両断。
結局家を出て同棲し、子供ができて婚姻届を出した。

それから3年、今回の事が起きた。
父親の怒りの根源がわかった。

しかし子供たちに罪はないと、夫婦の関係を修復すべく調停を申し立てた。
しかし調停は、予期しない方向へと進んだ。
夫は帰ってくるどころか、妻の 「非」を作り上げた。

夫の社会的信用のある立場と饒舌(じょうぜつ)さに、調停員は夫の味方になった。
口下手な妻の訴えは最後まで聴きいれてはもらえない。

しかし、「真実を知ること」という肝心なことを見落としていたことに気付く。
それは、夫の女性関係を暴くことだった・・・。

※ 本文は依頼人の了承を得てプライバシーに配慮しています。

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