【世間から見れば、一流大学を出て一流企業に就職し、5年次先輩を飛び越え管理職に大抜てきされ、見た目もよく人当たりもいい夫。
しかしその実体は、妻を見下し、モラルハラスメント(精神的暴力) を繰り返す男…。
ついに夫のパソコン履歴から、都内の高級ホテルを宿泊予約した事実をつかんだ。
その日は東京支店で会議があり、その後の懇親会で泊まりになると、妻に告げていた日だった…。】
午後13時。社員通用口付近に社用車が止まった。
夫が車に乗り込み、宇都宮駅東口で降車する。
2名の探偵が新幹線改札を抜け、乗車口付近の椅子に腰を降ろす。
鞄(かばん)から手にしたのはコピーらしき紙。
探偵がひとつ間を空けた椅子に座りコピーに目を凝らす。
夫が手にしていたものは、ホテルまでの地図だった。
夫は東京駅で降車して山手線に乗り換えたが、東京支店への最寄り駅では降りずに、2つ先のホテルの最寄り駅で降りた。
夫が警戒の目を向けてくることはない。
ホテルで待機する待機班に入電する。
夫はまっすぐにホテルフロントへ足を向けた。
夫がカード式のキーを受け取りエレベーターに乗り込む。
カップルを装った探偵も同乗する。
夫の指先は18階のボタンに触れた。
探偵は夫より先に降りて、電話を装いエレベーター前の奥に身を寄せ、先に夫を歩かせる。
部屋が判明した。
夫の尾行を追跡班に任せて、待機班はどの部屋なら出入りの撮影に適しているのか下見をして部屋を特定した。
すぐさまフロントに行き、部屋を指定して予約を試みる。
もちろん「ふたりの思い出の部屋なので・・・」とのコメントをつけることは忘れない。
運よく部屋がとれた。
万全の態勢を整える。
一方会社へ行った夫は、時間が過ぎ、男女8名とともに近くの中華料理店へ入った。
30分に満たない時、その中の女性のひとりが出てきた。
既にレンタカーを手配し車内から撮影していた追跡班から入電があった。
映像を押さえ、念のためにホテルの待機班に送信する。
それは以前同じような案件で、女性が先にホテルに入ったことがあるからだ。
案の定30分後、その女性が夫の部屋に入った。
美人とは 言えないが、子供のように愛くるしい雰囲気を醸し出している。
とても不倫をしているようには見えない。
その後、中華店を出た夫も部屋に入った。
そのまま朝を迎え、女性だけが会社へ出勤した。
その後の素性調査で、東京支店の21歳の独身OLであることが判明した。
後日報告。
妻は泣いた。見下していた夫と決別する希望が涙を誘ったのだ。
「時として外見と実体とはおよそかけ離れているもの。世間はいつでも上面(うわべ)の飾りに欺かれる。」
(W シェークスピア)
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