【生まれて5ヵ月の天使を「子供なんかうぜぇんだよ !」と言い放ち夫は家を出た。
父親としての自覚と責任の欠片(かけら)もない。
背後に見える女性の影。
なんのためらいもなく家族を捨てる夫。
このことを無垢(むく)な天使は知らない。
ただ、母親の腕の中 で無邪気に笑っている。
その笑顔を探偵たちは脳裏に焼き付ける。絶対に許さない。夫とその女性に、必ずや民事上の責任を負わせてやる。】


夫の勤務する都内I袋。金曜日午後6時。
会社員に姿を変えた男女3人の探偵たちが、社員通用口の3カ所に張り込む。
7時すぎ、夫は出てきた。
駅方面へ向かっている。

しかし、尾行する探偵は妙な違和感を感じはじめた。
夫は、歩きながらしきりに顔を横にむけるような仕草をする。
これは後ろを警戒する目とは違う。

強いて言えば、「僕はここにいるよ」というメッセージを発しているように感じた。
すると、最も後方から尾行する女探偵が、一定の距離をとりながら夫について行く女性がいることに気づいた。
夫とは別の通用口から出た女性だ。
首には鮮やかなオレンジ色のストールを巻いている。

「社内不倫か?」それを意識しながら、慎重に尾行する。
夫が最寄りの駅のホームへと足を踏み入れる。
やはり、女性も一定の距離をとりながら同じホームに立つ。
別々の車輌に乗った。
隣のM白駅で2人とも降車した。 既に、探偵たちは見抜いていた。

これは社内不倫する人たちが、会社内でばれないように、「連れ立って歩いていた」と見られないようにする行動様式であると。
通りを渡り銀行の裏手にあるコンビニで2人は合流した。
腰に手をあて満面の笑みでワインなを買い込んでいる。
探偵たちは、これから向かうであろうラブホテルの看板を無意識に認識し、場所までも把握していた。

M白駅付近にある唯一のラブホテルだ。
このコンビニからわずか100m先に、そのホテルはある。
ここへ行くということは、経験を積んできた感というより、もはや確信に近い。
カップルを装わせた探偵をホテルへ先回りさせ、撮影ポイントを決めさせる。
案の定 2人はホテルへ入り、パネルが点灯している部屋を選ぶ姿を撮影した。
調査続行の過程で、夫は平日、大学時代の友人宅を泊まり歩き、週末はこの女性と寝泊りしていることが分かった。
さらには、アパートを契約したことも。

後日の素性調査では、この女性が夫よりも8歳年上で、 同じ会社のOLであることが判明した。
依頼人は決断した。
絶対に泣き寝入りはしない。 この天使のためにも徹底的に闘うと心に誓い、明るい未来を信じて訴訟する道を選んだ

*本文は依頼人の了承を得てプライバシーに配慮しています。

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