男の警戒度合いは、相当なものだと感じた。
コンビニに立ち寄り、雑誌コーナーで立ち読みするふりをして外に警戒の目を向けてくる。
一方、妻の車は郊外のショッピングモールの駐車場に停車するかと思いきや、スルーして結局は北関東道にのった。

妻の車が行きついた先は、あるパーキング。
必ずや、二人は逢うと探偵の勘が告げている。

警戒をしているということ は、裏を返せば、必ず逢うということになるからだ。
男の車もコンビニを出て、予想通り同じパーキングへ。
妻は売店から離れたところに車を駐車して、トイレに向かう。

男は、トイレの正面に車をつけた。
トイレから出てき 妻は、満面の笑みで男の車に乗り込んだ。
警戒の色はみじんもなくなっていた。
二人で打ち合わせしたとおりのシナリオで、ここまで警戒したし、70歳の夫がまさかプロに依頼したとは考えてもいない。
もう安心だとたかをくくっているのだろう。
しかしプロから見れば、これはドラマに出てくるような「尾行を撒(ま)くためのまね事」でしかない。
警戒の緊張感を解いた段階で、勝負はついてしまう。

その後、二人は、県東にある日帰り温泉へ向かった。カップルを装った探偵二人が、ぴったりマークする。
すると二人はフロントで、部屋休憩2時間というプランを告げた。
探偵もそれにならい同じプランで潜入する。

探偵たちは運良く隣の部屋をキープできた。
部屋の造りは、一応個室にはなっているものの、部屋を仕切る壁の上が、木材の格子、欄間のような構造になっており、二人の会話は筒抜けになる。
その会話は夫に対する罵詈(ばり)雑言。夫をののしり、ばかにしている。
部屋に集結した探偵たちも、自分たちの親、祖父母と年齢のかわらない二人の会話に、胸が痛くなる。
ラブホテルでの仕事のほうがよほど救われると思いやられるぐらいまでに、ひどい会話が続く。

そして・・・。探偵たちは、紙面ではとても表現ができないほどの憤りを感じる時間を費やさなければならなかった。
真実を伝えるのが使命、しかし夫の気持ちを思うとやりきれない。
老いらくの不倫という現実。仕事のむごさを思い知らされた。
私たちにできることは、夫を徹底的にフォローしていくこと。それしかできない。

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