子供を迎えの幼稚園バスに乗せた妻は、小走りでマンションのエントランスに向かう。妻の顔と全体像を撮影し、それを担当する探偵たちにすぐさま送信する。それは、探偵たちが妻を完ぺきに「面識」するために必要不可欠なこと。特に、女性の場合は、夫から見せてもらった写真とは乖離(かいり)している場合も少なくないからだ。飛び抜けた美人というほどでもないが、バランスのよい顔のつくり、最適の化粧を施している。服のセンスもよい。体つきも、細身だが決してやせてはいない。いったん部屋に戻った 

妻は、ものの2、3分で出て、100Mほど先の月決め駐車場から車を乗り出した。一方通行、行き止まり、狭い路地が細かく入りくんだ、徐行でしか進めないような路地を進んでいる。相当警戒しているのがわかる。 

しかし、警戒が強いことは既に織り込み済みだった。夫から、以前、他社に依頼して尾行したが、失敗していて、妻は口にこそ出さないが、尾行されたことを認識しているのだと。そのため、最高難度の陣を敷いた。プロとして失尾(見失うこと)は許されない。妻の車は、10分ほど走って再び月極駐車場に帰ってきた。周りの様子をうかがいながら携帯を操作している。5分ほどして、再び車を乗り出し、デパートの立体駐車場へ。そこから、向かった先は、下着売り場だ。そこでは、ふたりの女性探値がマークする。買う様子はうかがえない。この妻は、下着売り場に来れば、男の探偵のマークは難しくなることを知っているのだ。デパートの次は、パチンコ店内を通り抜け裏の出口を抜けた。これは、「蛇抜け」という、まったく関係のない建物を通り抜け尾行を逃れようとすることである。ここまでやるのは、必ず過去に調査された経験がある人間にしかなし得ない行動だ。そして、パチンコ店の裏の出口に停車していた車に乗った。

最終的に行き着いた先はラブホテル。なんとか、バイク追跡班の1台だけが、捕捉できた。その後、3時間の逢瀬のあと、妻は自宅へ戻り、男性は、県南のある会社に入った。勤務中の逢瀬だったのか。後日、男性の素性調査を実施。結果を聴いた夫の顔は、強い翳(かげりを見せた。「この男か・・・」とだけつぶやき、夫は多くは語らず事務所を後にした。

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