街がクリスマスに彩られたある日のこと、一本の電話が入った。宇都宮へ単身赴任し ている夫の変化に心を痛めている30歳の妻からだった。 「東京駅付近まで相談に出向いて ほしい」と。

丸の内で話を聞く。妻は心 が穏やかだった日々を慈しむ ように、夫について語りはじ めた。夫は一流企業の管理職 で、一昨年、栃木県内の工場 に赴任した。 現在、宇都宮市内の会社が用意したマンションで生活している。

8年前、娘にねだられて購入した1匹の犬が、夫の生活を変えたという。会社人間の夫は、帰宅が深夜になること も多かった。ところが、犬を迎えたころから、深夜の帰宅は少なくなり、夫が自分の時間 を割いて熱心に世話をやいた。愛犬と過ごす時間が、夫にとってはかけがえの ない時間となっ た。

赴任してからも、必ず週に1度は多摩の自宅へ帰省したし、毎日かけてくる電話も、内容は愛犬の様子ばかり。 時には、電話口で愛犬の名前を呼ぶほどのかわいがりよう だった。むしろ、赴任してか らのほうが、夫の愛情を強く感じられるようになった。いさかいもない円満な家庭だった。 そんな夫を、妻も愛し娘も尊敬していた。

そんな夫が変わった・・・ 多摩にある自宅へ帰省する日が不規則になった。毎日あった電話も少なくなり、今では帰省も月1回に減ってしまった。それよりも、 気がかりなことは、帰省しても、愛犬とベッタリだった夫が、書斎へ閉じこもる時間が多くなっていったことだ。そして、時折見せる遠くを見ているよう な眼が何より妻の心に引っかかった・・・。

夫が帰省しない週末の金曜日に調査を開始。夫の5階の部屋のベランダ側と、マンションの入り口が視認できる9部屋のベランダ側と、位置、玄関の開閉を視認できる向かいの貸しビルの屋上に探偵を配置した。

すると、夫が帰宅した午後7時直後に、マンション入り口に張り込んだ探偵からの無線が入った。その声はあきらかに高ぶっていた…。

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後編に続く

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