当時の住所はもうない。幹線道路が抜け、大型店舗が軒を連ねており、依頼人の記憶に残るのどかな農山村地区とはまるで様相が違っていた。

今回の調査は、単に娘の所在を突きとめればよいというものではない。娘のプライバシーを最大限に配慮しつつ、母子の名乗りをあげることができた・・・らという母の切ない思いを背負っている。 

現地に乗り込み2日後、依頼人が嫁いだ家を突きとめた。糸を手繰り寄せるように調査を進め、当時の実情が分かる人物を絞り込む。

ようやく娘と中学の同級生だったという人物と接触することがで きた。事情を説明すると、快く協力を得ることができた。同級生に同行を依頼して女性探偵にその家を訪問させる。すると、嫁ぎ先には、父親の元夫の妹夫婦が住んでいた。警戒されないように話を引き出す。舅(しゅうと)は30年前、姑 (しゅうとめ)は20年前に他界し、父親は娘が4歳、つまり依頼人と離婚してから2年後に東京に働きに出て、姑の葬儀後に音信不通となったという。

娘は子に恵まれなかった妹夫婦に育てられた。 

現在は、東北最大の都市で一人暮らしをしながら美容室で働いているという。結婚はしていない。翌日、その都市へ向かい、美容室を見つけ女性探偵を潜入させた。しかし、女性スタッフが6人もいて、人物が特定できない。 

探偵が外からガセ電話を入れて女性探偵が人物を特定するという作戦をとる。

電話が鳴るとスタッフが受話器を取り、ある女性のもとへ駆け寄り耳打ちした。店長と呼ばれていたスタッフだった。その女性が受話器をとった。つまり、この女性が33年前に別れた娘だった。

この先は、慎重を期さねばならない。三十有余年の時空は深くどんな感情が噴き出 すのか想定できないからだ。店の明かりが消えて最後に出てきた娘に声をかける・・・。娘は、「恨みなんかまったくありません。叔母夫婦がわが子のように愛情を注いでくれましたから」と語り、持参した依頼人の現在の顔写真を見せると、

「私、似ていますね」と屈託のない笑顔を見せた。

「会ってもらえないか?」との問いに、少し時間をくださいという。

それから2ヵ月。私たちが仲介し、ようやく今月末に33年ぶりの対面がかなう。33年の長い年月の時空が埋まればいいと、ただひたすら願うしかない。

GK探偵事務所 宇都宮は、20年以上の探偵業を続けています。宇都宮市を拠点に、栃木県内外からの依頼を受けています。
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