テレビ局からの電話。「30年前に姿を消した母親を捜してほしい」と直訴の手紙が届いた。このTV局は10年程前に、GKの浮気調査のドキュメントを放映。それから懇意にしていて、探偵ドラマや番組企画の相談等をしてくる。「手紙の主は、山陰地方に住む40歳の男性。本人が10歳、兄が12歳の時に母親がいなくなってしまった。それから父親方の祖父母などに育てられた。普通であれば、母親に捨てられることほど子供心に深く傷を植え付けるものはないと思うが、「捨てられたという恨みはまったくない」と書かれている。「母親に逃げてほしいと思っていたから」と。母親は早くに身寄りをなくし農家に嫁いだ。父親は酒乱で酒を飲むと理不尽な言いがかりをつけて母親に暴力を振るった。酒乱だけでなく、母親を見下したように何かにつけて怒鳴り散らし手を上げていたという。祖父母も嫁いびりが激しく、暴力を振るう父親をたしなめたことは一度もなかった。そんな思いから、幼心に母親には逃げてほしいと願っていたのだと。

 母親が家を出て3年後、兄が交通事故で亡くなった。父親はその辛さ寂しさ、のすべてを母親が家出したことへ転化し、何があっても籍は抜かない、絶対許さないと怒った。何度となく捜したいと思っていたが、万が一父の知るところになったらと思うと捜すことはできなかった。最後に、「母に恨みなどまったくありません。元気で幸せに暮らしていたなら、それが一番です。でも、生活に困窮しているようであれば、手を差し伸べたい。私が会うことで現在の生活に少しでも迷惑がかかるようであれば、様子を教えてくれるだけでいいのです。天国へ行っていたとしたら、そっとお墓参りをしたい。その時はお墓の場所が知りたいのです」と記されていたという。

 TV局の担当者は、この内容に心を打たれ、TVで放映するという前提で企画しているので行方を捜してほしいと。1カ月の調査を経て、茨城県の山間部に暮らしていることが判明した。写真を撮る。局へ見せたところ、息子とはうり二つだと。その後、生活の状況を探ると、同年代の男性と暮らしていた。2人で家庭菜園の手入れをしたり、買い物に出かけたりと仲むつまじい様子がうかがえた。ここからが大きな正念場になる。男性と暮らしている以上、母親の過去が今の生活に水を差してしまわないように細心の注意を払わなくてはならない。事情をこの男性が知っているのか否かで、母親に対するアプローチが異なってくるからだ。その後の調査でそれは杞憂(きゆう)に終わった。実はその男性こそ、母親を地獄の暴力から救ってくれた、身近にいた人だったからだ。10日後にいよいよ面談が叶う。私たちはただ母子の幸せを願うだけである。

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