数年来懇意にしている弁護士からの電話。知人の25歳の娘が妊娠5カ月だが、その相手の男性からの連絡が途絶えてしまい、途方に暮れているという。
母親とその娘が相談に来た。話を聴くと、その男性の携帯電話は知らないし住所も知らない。オンラインゲームで知り合い、意気投合して昨年の8月に初めて会い、深い関係になり月4回程度デートを重ねていたという。12月に会った時に、妊娠の可能性を告げ、2人で検査薬を購入し調べたところ陽性。翌週は2人で産婦人科を訪れ出産の計画を立てた。その時、彼の産んでいいからねという笑顔に娘は歓喜して頬を濡らしたという。母子手帳へも彼の名前と生年月日を記載し、そこで初めて彼の名の漢字表記と生年月日を目にしたという。
ゲームを通じて連絡が取り合えるので、携帯番号も住所も生年月日も聞くことがなくてもと話してくれた娘の感覚が、正直理解できなかった。それから、コロナに感染したかもしれないからしばらく会えないとラインがありそのまま連絡が遮断された。もちろんゲームも退会していた。
人探しにはどれだけ客観的な情報があるかがその成功率を左右する。今回の依頼人はその情報が少ない。それも「正確な事か嘘なのか….」の判別もつかない。しかし、人は相手をだますときには、だましの中にも必ず真実がブレンドされていることは30年前に人探しのテレビ番組で知名度を得たGKには分かっている。
娘がその男性から聞いていたことは、妻を不慮の事故で3年前に亡くして、今は実家の手を借りながら保育園に通う子供を育てている。親が地元の名士で結婚するとき所有する土地をもらい一軒家を建ててくれた、大学院を卒業し、○○(全国規模の超一流メーカー)で、AIの研究をしている34歳ということだけ。あとは、車の車種と色と他県ナンバー(カナ・ナンバーは不明)だけだった。ただ、マスクはしているものの、2人でテーマパークへ行った時の写真が数枚あったことは救いだった。
あらゆる方法を駆使し、調査開始から50日を過ぎょうとした時、ついに相手の男を見つけた。男は、妻と2人の子を持つ35歳。母子手帳の申請に男性自ら記入した氏名の一部は違う漢字が使われていた。誕生日は同じだったが、生年を変えていた。報告の日、娘は口惜しさと怒りに震え取り乱す。母親とスタッフはただ黙って、その怒りを受け止めるしかなかった。現在、弁護士を含め今後の対応を協議継続している。
マッチングアプリ等の出会い系サイトやオンラインゲームでいとも簡単に交際が始まる現代、同じ事例がちまたにあふれていると危惧してやまない。