夫は自動車メーカーの研究者。都内から新幹線で県内の企業へ通勤している。
妻と知り合ったのは大学院の研究室。3年の交際を経て結婚5年目になる。子供はお互いに持ちたくないという合意の結婚だった。夫は仕事に明け暮れ、妻は夫が仕事に打ち込むことができるようにと、勤務している会社の総合職の立場をなげうって、出張や残業のない部署に転属した。

ところが、今年3月中旬、「疲れた」と夫が突然家を出た。それでも妻には不安はなかった。これまでも仕事で行き詰ると、夫は家を出て3日もすると何事もなかったように帰宅することが年に4、5回あったからだ。妻は帰宅した夫を責めることもなく、行き先を聞くこともなく、温かく迎え入れていた。

しかし、今回は夫が家をでてから5日を過ぎた頃、「離婚したい…今までありがとう」と記されたわずか2行の手紙とともに、離婚届が郵送されてきた。もちろん携帯の電源は切られている。夫の勤務する研究所へ電話するのも、夫の将来を考えると気が引けてしまう。兄に相談すると大学の友人が都内の弁護士事務所にいると聞き相談に出向いた。

「ご主人がどこに住みどのような生活をしているか、まずはその真実を解明することが必要不可欠」

と言われた。夫の勤務先は千人を超える事業所の中にあり、夫は宇都宮駅から事業所までバイクで通勤していたという。そのバイクが置いてあ場所を特定することから始めなくてはならない。事業所の四方に探偵を配置して、バイクで通勤している社員をマークして夫のバイク置き場を判明させるまでに4日間も要した。フレックス勤務とコロナ対策による在宅ワークもあり、夫がバイクにまたがるまでにさらに3日間を要した。夫のバイクを探偵たちがバイクと車で尾行する。行き着いた先は、バイクで20分程の公営住宅の一室で、その部屋には灯りがついていた。その部屋を張り込むと翌朝、小学高学年の女の子が出て来て集団登校に交じる。そこれから30分後、30代後半の女性が施錠せずに家を出た。さらに、1時間後に夫が部屋に施錠してバイクへ。夫が住んでいるところは、年上の女性と小学生の女の子がいる一室だった

その後の調査で、その女性は離婚歴がある40歳の女性で、夫が勤務する食堂で働いているという事実が判明した。妻へ報告。茫然自失となり、妻はこの真実を受け入れることができない。何度も映像を確認する。「なぜ年上のそれも食堂の人? なぜ子供のいる人?」と口にしていた。私たちはただひたすら耳を傾けるしかなかった…。2週間後、兄が事務所を訪れた。妹から話を聴いて、義弟の職場宛に手紙を書き、今日2人で会うことになったと。

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